*わけ
お題「不器用」改題
高1-夏
「次の試合? 次は平日だからさ、行けないけど、そん次絶対進むから――」
教室の入口っていうのは大抵あんまり広くはないから。
休み時間に2〜3人も溜まれば通る隙間なんてなくなっちゃうってゆうのに。
「みんな9組で何してんの?」
千代の声に、入口にまるく溜まっていた数人の女子がぱらぱらと振り返る。
彼女たちは口々に「団長さんに試合日聞きに来たんだよ」と答えた。
「え? そんなの私が教えてあげるよ。うちの組、野球部たくさんいるのに」
きょとんとした顔をした千代から言われると、クラスメイト達は、今度は何やら含みのある様子で「まあね、そうなんだけどぉ」と微妙な笑顔になる。
(ああ――、そうゆうことか)
「団長さん大人気だね。すごいねぇ」
入り口のすぐ近くには、9組野球部員御一同様がいる。
大きく瞬きを繰り返す三橋と、体を少しひねるみたいにこちらを向き、「おお」と簡単な一声を掛けてくる泉と。
それから口に菓子パンを目一杯詰め込んだまま、『篠岡!篠岡!』と言いたげに、ウーウー唸っている田島と。
田島は千代に何か返事を寄越そうとしたけれど、名前を呼ぶのとは違って言葉ともなると、呻き声の抑揚だけじゃちっとも喋ってる事が掴めなかった。
「田島君……いいよ、先に飲み込んで。喉詰めるよ」
口の中のパンは減った分だけ外にはみ出たところが仕舞われて、一向に頬のしぼむ気配はない。
「よくみんな訊きに来るの?」
千代は中で一番真っ当に相手をしてくれそうな泉に訊ねてみる。
「ま、な、最近時々あるぜ」
片手で田島のパンを口の中に押し込む手伝いをしながら、泉は眠たいような目をして言った。
少々呆れの混じったような声。浜田を手伝っている援団の連中とは違って――まあ野球部の、他の部員達も大概似たものだけれど、殊に泉は千代の目から見ると、女子の注目を集めるというような事にさほど興味がないみたいで、今も「なんか人が溜まってんなあ」くらいの反応しか窺えない。
呆れられてるのが自分のクラスメイトとあって、千代はへへへ、と笑いながら冗談めかした。
「そりゃそりゃ、どうもウチの組のモノがお世話になりまして」
「篠岡……親分みてえ」
親が呆れて「もお、あんたって子は――」と言う時に、少し似たような口調で泉は零してから、やっぱり少し眠いみたいな感じで首を曲げ目を閉じて、しばらくしてからゆっくり、薄く瞬きを繰り返した。
――眠そう。
というよりは、何か面白く無さそうな様子だろうか。
背後の会話を聞き流しながら、泉は時々片手間に田島が口にパンを捻じ込む手伝いをする。
『平日の試合って応援団もいけないの?』
『まー、正式な部じゃねえもん、仕方ないよね』
『じゃあ団長さんも居残りなんだ』
入口では相変わらずの様子で、机上の筆箱に落とした目の焦点を絞るみたいに泉がすっと瞼を引いた。
『せっかく横断幕とか用意してるのに残念だね』
『でもさ、次は休みに入ってるだろ?』
負けるなんてありえないような、少し熱の入った口調で、浜田は7組女子の相手。
『校内に掲示もしとくしさ、こっちも声掛けるし。オレ達気合入れてくから、来てくれそうな人いたらなるべく声掛けあって応援来てよ』
『団長さんの頼みとあれば! アタシ達もがんばって大人数で応援行くよお』
泉は難しい顔をするみたいに細めていた目を、すっかり閉じてしまう。
(ああ、ああそうゆうことか)
「泉君さあ」
「あ?」
「ヘンな顔になってるね――。いま」
あれ? 泉君ったら、今ちょっと笑ったぞ?
千代がそんな風に思っていたら、名を呼び返された。
「篠岡さあ」
泉は姿勢を崩して椅子に腰掛けたまま、ひらひらと手を泳がせて千代を手招きする。少し低い位置で振れる指につられて窓の桟から姿勢を低くすると、千代の頭に片手を掛け、泉は眉間に当てた親指をぎゅっと押し上げた。
「オマエもヘン顔になってんぞ――。いま」
「……ええっ!? 私、女子なのにひどいよー!」
怒ってみせれば目の前には、からかうように満面の笑み。
女の子の顔を崩すなんてちょっと本気でひどい話だ。田島なんか大喜びしているし。
そうは思ったけれど、千代は少し口を尖らせただけだった。
だって――。仕方ないから今日は貸しにしといてあげる。
そうやって笑ってるけど、ご機嫌はナナメ
『団長さん』じゃ嫌なんだ?
夏/投/列/島/薬/局/
INFORMATION
MEMO
TEXT
BOOKMARK
RESET