*氷砂糖
夏
その袋は、初夏にやってきた荷物の緩衝材として詰められていた――
クール便でやってきた10kgのミカン箱からは、冷凍用のジップロックにきれいに小分けされた焼魚だとか、茹で野菜とか、もちろんご飯だとか、それからタッパーに入ったキンピラだとか、そんなものが次々と出てきた。
果物は浜田用。野菜はお世話になっている大家さんへのお裾分け用だ。
それから小さな梅酒の瓶。表面にはマジックで書かれたメモが輪ゴムで止められている。
『夏バテ対策用。薄くして少しずつ飲むこと!酔っ払い厳禁!』
そう、書いてある。
次に瓶のカーブを守るようにして詰め込まれていた袋を引っ張り出すと、浜田はまじまじとそれを眺めた。
「なんか懐かしいものが入ってんなー」
横で珍しそうに荷物を覗いていた泉も、黙って目を向けた。
大きな袋の隅を切り取って、これもまた輪ゴムでくるくると閉じられた袋の中には、透明な表面を細かく擦ったような塊が詰まっていた。
「何それ?」
「え? オマエ、氷砂糖知らねえの?」
少し嬉しそうな顔になった浜田は輪ゴムを外し、中の一つを口の中に放り込んで訊ねた。
泉は黙って首を振る。
「これとさ、梅を焼酎に漬けて梅酒ができるんだよ」
そう言うと、浜田は傍らに置いていた瓶を揺らした。
小さな頃、6月の終わりから7月の頭になると、浜田は母から毎年青梅と氷砂糖の買出しにつき合わされていた。
父親の職場から借りてきた軽トラに乗って、青梅と、焼酎と氷砂糖を買いに。
母の運転する隣で夏の匂いをかぎながら、浜田は少し離れた市場までの道のりを、全開にした窓から顔をちょっと出して風に吹かれながら往って、そして、決まって瑞々しい匂いで車内を一杯にして帰ってきた。
帰ると母はさっそく青梅をきれいに洗って掃除して、二つ三つ用意した、赤い蓋の大きなガラス瓶の中に氷砂糖とそれを交互に敷くと、果実酒用の焼酎をひたひたまで張って、決まって流しの下にしまう。
よくその隙を突いて、浜田は焼酎に浸った直後の氷砂糖をくすねては母に叱られたものだった。
「駄目だよヨシ!カビが生えるでしょ!」
怖い顔をして睨んだ後、「アンタ、お父さんに似て酒飲みになるんじゃないの?」母はそう笑った。
子供のくせに、浜田は焼酎に浸した氷砂糖の、一瞬舌を焼いたあと、じわっと甘みの広がる味が好きだった。
しばらく舌の上で氷砂糖の滑らかな表面を撫でていると、じっと見上げる泉と目が合う。
昔を懐かしんで、傍に居ることを忘れかけていたけれど、その間も泉は黙って浜田の手元を見たままだったようだ。
「それ、美味い?」
カシカシと音をさせて口の中の欠片を砕くと、浜田は答を考えるような顔で氷砂糖を飲み込んだ。
「美味いつーかさ、ただの砂糖。甘いだけだよ? 食う?」
興味深い目で見ているのに、ただの砂糖と言われて強請りにくくなったのか、泉は頷くように見えなくも無い感じで、黙って少し頭を傾けただけだった。
浜田はサイコロを転がす時のように袋を振る。
「なんかコレ、デカイのばっか入ってるなあ――」
浜田は取り出した塊をしげしげと指に挟んで眺めたあと、奥歯で半分噛み割った残りを泉の方へと寄越した。
「え? こんだけかよ。ケチ」
元の大きさから半分以下になった塊を見た泉から、不審そうな、物足りない不平が上がる。
「まー食ってみな。氷砂糖も知らねえ口の肥えたお子様が、デカイの食うと飽きちまうよ」
そんくらいで十分、十分。
子供をあしらうような口ぶりに不服そうに泉は唇を尖らせていた。けれど、浜田が噛み割った半分を食い終わるのを見て、手のひらの欠片をやっと口に含んだ。
歯を当てた面は少しギザギザがあって断面はガラスみたいに滑らかで、それから少し、懐かしいような味。
懐かしさの元を探るように舌でなぞっていると、元々小さかった塊はそれを突き止める前にするりと溶けて、氷砂糖は優しい甘さだけを残して消えていた。
夏/投/列/島/薬/局/
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