*わすれもの
2010泉誕。※ちょっとばかり遅刻
「……言い忘れた」
思い出したのは明日を12月に控えた翌朝の事だった。
今月は月の初めから、さて29日はどうしてやろうかと、プレゼント含めてあれこれ考えを巡らせていたのだけれど、その途中でふと思った。
こっちから誘わずにいたら誕生日当日に自分からウチに来るなんて言葉、祝福を強請るようで泉なら絶対に言えないだろうってことを。
だから試しに、わざと何も言わずに様子を見ていたら案の定だった。
一週間を切ったあたりで何か頭の中に渦巻いているみたいな顔をしはじめたと思えば、誕生日数日前を狙ったかのようにして自宅へと来襲された。きっと思惑の有無を探り合う羽目になることを面倒がって、心情的に29日を知らん顔ですっとばすつもりだったのだろう。
X-dayが近づくにつれて段々態度に落ち着きがなくなっているように感じて、面白がってしつこく経過を眺めていたら、うっかりそのまま当日を迎えてしまった。
つまり、こっちも呼び損ねたわけだ。
持っていく事を考えていなかったプレゼントはむき身のままだし、これはしくじったなあと思った。
泉としては、当然ウチにくるだろうって調子で呼べば素直に顔を出していたはずだっただろうし、本人もその辺りが落とし所だと思っていただろう。
だって学校という、周囲を溢れるほどの「友人・知人」が取り巻く環境にあって、年に一度の記念日を誰にも思い出されず経過してしまうなんてこと、現実にはちょっと考え辛い。知らん顔で一日を終えるなんて、さすがに無理がある。
この「友人・知人」のおかげで、こちらの事態も悪化した。
29日当日、朝イチの通学路で泉を捕まえ損ね、あたふたと第2グランドに急いで赴いた。
ここが誰にも邪魔をされず声を掛けられるタイムリミットだと分かっていたからだ。
ところが開きかけた口の前を軽々と抜いてった田島にトップを切られ、後はチームの連中がわっと盛り上げちまって――その中に混じるのは嫌だとか、自分は連中とは別ものでしょう! なんてつまんない意地を張って機を逃し続けた。
なんという悪循環。
きっと今年、誕生日を当日「最も」「一番」「最後」の「最終便」で祝う羽目になるんだろうなあと、帰り道の100均で買った紙袋にプレゼントをねじ込みながら、悶々と夜に訪ねていくタイミングを計って頭の中の予定表を書き直していた時、時間はすでに10時を過ぎていた。
ああでもない、こうでもないと予定を書いては消した29日の、もう、一日も終わろうかって時間だ。
日没が速くなったことで練習時間が短くなり、その分、夏に比べて帰宅後に余裕があるから、今頃泉はこの界隈のどこかをせっせと走っているだろうと思いながら、裏に指紋を写しまくったセロテープでようやく閉じたこの紙袋を持って出かけるのはそろそろだろうかと残り数十分の事に思いを巡らしていたらチャイムが鳴った。
「はいぃー?」
いつの間にか正座で座り込んでいたおかげで痺れの切れた足を絡ませながら、前のめりになって玄関のドアノブに手を掛けた。
僅かに回した途端、外側からも勢いよく力が加わってドアが引き開けられたものだからバランスを崩し、べこんと音を立てて頭をドアにぶつけた。
じんじんと痺れる頭の上から「オマエ――なにしてんの?」って、聞こえてきたのは毎日聞き慣れすぎてんだけど今聞くとは思ってもみなかった声。
「あれ……泉? え、なんで? なにしてんの?」
「なーに泡食ってんだよ」
散々走った後なのか上気した顔を傾け、泉は呆れたような目でこちらを見下ろしていた。
呆れたような目ってのは、別にこの夜に限らずよくされるんだけど。
「いや、だって、泉が来るとは思わなかったんだもん」
「テメエの挙動が一日中おかしかったから様子見に来たんだろ。で、なに?」
「……挙動……不審だった? いや、今日ウチに呼び損ねったから、プレゼントどうやって渡そうかと思ってただけなんだけど」
「はあっ?」
素っ頓狂な声も「アホか」とでも言いたげなしかめっ面も、耳と目に痛い。
挙動不審って――。
なんだってこう下手を打っちゃったんだろう。
いや、それよりも……なんか、なんだろう? この、何か言い間違えたような、喉の奥の引っかかった感。
「――じゃあ、オレがじゃましたら解決なわけ? 今」
「いやいや、んな状態でウチ上がったら風邪ひくから、もう、今日はいいから帰んな……あ」
ロクに暖房もない家の中に汗を掻いたような状態で上がりこもうとした泉を「ちょっと」と押し戻し、慌てて居室の紙袋を取りに戻ると、中だけ引きずり出して戻ってきた。
中身はニット帽だ。
花井が持ってんのを見て温そうだと思ったんだけど、今、ちょうど耳が赤くなっているから帰りに被っていけばいいと思った。
ああ、でもコイツ額にもけっこう汗掻いてら。
「ゴワゴワするけど。これ被って冷えないうちに帰んな」
洗ってあったタオルを泉の頭に括りつけた上から帽子を被せ、呆れていいんだか馬鹿にしていいんだか分かんないみたいな顔したその背に手を当てて外に押し出した。
「気―つけて帰れよ」
「……おう」
気の抜けた返事を聞いて丸1日狂いまくった予定の終息にほっと息を吐き、首を傾げながら帰って行く後ろ姿を見送った。
茫々に伸びた髪が全部ニット帽の中に隠れてしまった泉の顔が中学の頃とあまりに変わらなくて、それが少し嬉しくて、日付が変わる頃にはすっかり目的を果たした達成感に満ち足りてオレは眠りに付いてしまったのだった。
おめでとうと、言い忘れたまま。
夏/投/列/島/薬/局/
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