*あのこが欲しい
かぁーって! ウレシイ! はーないちもーんめっ!
まけーって! クヤシー! はーないちもーんめ
あーのコーがほーしいっ!
あーのコーじゃわーからーんっ!
こーのコがほーしいーっ!
こーのコじゃわーからーんっ!
相談しーよー!!
そうしーようっ!!
「泉!」
「――オマエ達まだ相談してねえだろ、阿部」
あ、今呼んだのは指名じゃねえから。
泉はさもそう言わんばかりに、阿部に腕をつき伸ばした。
何が悲しくて、いい年をして花いちもんめをする羽目になったのか。
放課後には、練習試合を引き受けてくれた学校の顧問が打ち合わせに来る事になっていた。
聞けば埼玉県下に赴任して間もないそうで、途中で見事に迷ってしまったらしい。
ミーティングを終え、約束の時間になって電話一本寄越してきたそいつを、誰が迎えに行くかという話になったわけだ。
この時期、志賀と百枝は寸暇を惜しんで打ち合わせに余念無く。
とはいえ十人、もしくは篠岡込みで十一人、揃って出ていくのはばかばかしい。
篠岡を一人で出すのも憚られる。
迷った目印を聞けば、しかもちょっと出かけるのが面倒な距離だった。
「そのうち来んじゃないの? てかあ、遅く出た方が楽じゃない?」
水谷が呟き、田島が嬉しげに人選方法を提案したのがコレ。
「じゃ、昔ナツカシ花いちもんめできめよーぜー」
「――田島、そんな女の遊びよく知ってんな」
「おお! うちは兄弟多いからな! 男も女も任せとけだ!」
呆れ声の泉に田島は胸を張り、自分が良案を出したことを誇示した。
水谷の呟きはさておき、懐かしさに興味を示したものもいて、花も恥らう高校生総勢十一名による花いちもんめ大会が幕を開けたのだった。
音頭を取る声の一部がヤケクソ怒鳴り気味なのは、反対派によるものだ。
「いいよ泉、そんなにきっちりルールに沿わなくて――。オマエ決めな」
元から乗り気でなかった花井が、対岸から疲れたように言う。
花井側は7組の四人組に3組の二人というメンバー構成だ。
泉側は9組三人と1組の二人。
両脇を見れば、みんなはそれでいいと頷いた。
「水谷! 最初はグッ!」
かぁーってウレシイはーないちもーんめ
相談しましょ
そうしま
「泉!」
早々に負け、顔をピンクにしてへらへら笑う水谷を加えた仮称泉チームは顔を見合わせた。
「なんでオレ? つかなんで阿部が全部決めてんの」
「ああー、いいって泉、もう、指名されたヤツが決めるルールでやってこうぜ」
ますます面倒そうに花井が言った。
泉チームもそれで良いと頷く。
「じゃー沖! 悪いようにはしないからこっち来い! さいしょーはグッ」
かぁーってウレシイはーないちもーんめ
相談しましょ
「泉っ!」
「花井―」
泉をのぞく泉チームは、阿部の剣呑な態度に身を竦めた。
かぁーってウレシイはーないちもーんめ
「泉っ!!」
「西広センセー」
泉チームは泉を置いて、一歩大きくあとずさる。
かーって
「泉っ!!!」
「シノオカ来い!」
泉チームは怖いものを見るように黙って阿部の奇行を見守った。
「阿部はオレがジャンケン弱えって思ってんの? 何意地になってんだありゃ」
何回かアイコを出しながら、泉がふてた小声を出した。
「そんな感じには見えないけれど? ――あ」
負けちゃった。
篠岡は、泉の手のひらより高い位置で握り締められている自分の拳を眺めた。
「つーことで、悪いが篠岡はもらった! 阿部は出迎えよろしく」
言うが早いかグーにしたままの篠岡の手を引いて、泉は阿部を残し、大きく引き下がった泉チームへと意気揚々と引き上げてしまう。
(田島君に女の子の遊びなんて言ったのは泉君だったのに)
ルールには厳しいし、こうしてちゃんと千代が昔やっていたみたいに負けた子の手を引いて、律儀に列まで帰っていく。千代はすこしくすぐったいような気分で繋がれた自分の手を見た。
『かってうれしいはないちもんめ
どの子が欲しい?』
相手の組から呼ばれ合った子供はみんなの前でじゃんけんをして、勝敗を決める。
そして勝った子供は負けた子供の手を引いて、喜んで迎える自分の組へと得意げに戻っていく。
負けた子供は自分を獲得して大喜びする組に入るのだから、負けているのに、今みたいに嬉しいような、ちょっとくすぐったいような気分になるのだ。
(あれ?)
篠岡は首をかしげた。
みんなのところにたどり着いて千代の手を離し、満悦した表情で振り返る泉を見てあっと思った。
「ねえ、泉くん」
「ん?」
すごすごと正門へ歩いていく阿部を見ていた泉が千代へと目を向ける。
「いやー阿部君、一体どうしちゃったかと思って」
「ああ、阿部が何考えてるか分かんねー時は構わねえ方がいいなー」
再三にわたる呼びかけは、ただその手を引いて連れ帰りたかっただけかもしれない。
とはなんだか続けて言えなくて、
「……そうかもね」
千代は力なく笑った。
泉の顔を見上げ、それから同情するように、敷地の向こうへ消えようとしている阿部の後姿を見送った。
夏/投/列/島/薬/局/
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